東京高等裁判所 昭和51年(ネ)161号 判決 1976年7月28日
控訴人 楓開発株式会社
右代表者代表取締役 小日山秀晴
右訴訟代理人弁護士 三好徹
同 西村国彦
被控訴人 宮崎茂治
<ほか一二名>
右被控訴人一三名訴訟代理人弁護士 大谷昌彦
同 市野沢邦夫
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を、被控訴人らは「控訴棄却」の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次に付加するほかは原判決事実欄記載のとおり(但し、原判決第五丁裏始めから五行目に「二月二九日」とあるのは「三月二九日」の誤記と認めて訂正する。)であるから、これをここに引用する。
控訴人において、
「被控訴人らの主張する本件契約は、村上隆介、加藤治三、角田実の三名が、株式会社高尾ゴルフ倶楽部という架空の会社名を使用して被控訴人らと締結したものであり、そうでなくても、本件契約は、前記三名の者が控訴人とは別個に存在する楓カントリークラブ(変更前の名称は高尾ゴルフ倶楽部)の発起人総代として締結したものであって、いずれにしても控訴人が右契約上の債務を負ういわれはない。かりに、右契約が前記三名の者において控訴会社設立の発起人総代として、すなわち、設立中の控訴会社の機関として締結したものであるとしても、この締結行為は設立中の控訴会社の開業準備行為に外ならないから、控訴会社に対しては勿論第三者に対してもその効力を有しないものであり、従って、控訴会社がその設立と同時に同契約上の債務を引受けることは論理上ありえない。」と述べた。
理由
当裁判所も被控訴人らの本訴請求を一部は理由があるが、その余は理由がないものと判断する。その理由は左記に訂正するほかは原判決の理由と同じであるからこれをここに引用する。
原判決理由中一および二を次の一、および二、のとおり訂正し、原判決理由中五を次の五、のとおり訂正する。
一、≪証拠省略≫を綜合すると、訴外村上隆介はかねて他の訴外人らとともにゴルフ場の経営等の業務を目的とする控訴会社(控訴会社の商号は、設立当初は株式会社高尾ゴルフ倶楽部であり、その後、株式会社富士桜カントリークラブ、さらに現商号のとおりと変更された。このことは当事者間に争がない。以下単に控訴会社という。)の設立を企画発起していたが、その後控訴会社設立の発起人代表となり、昭和四八年二月七日にその設立登記を完了した(同日この設立登記がなされたことは当事者間に争がない)ものであるが、右村上は、昭和四七年一二月下旬頃、未だ控訴会社の設立手続がなされず、設立登記を経ていないのに、同会社の代表取締役として、被控訴人らとの間に、(イ)被控訴人らは各自控訴会社に対し高尾ゴルフ倶楽部入会保証金一五〇万円を預託する、(ロ)控訴会社は被控訴人ら各自に対し被控訴人ら主張のゴルフコースをその主張のとおり開設し、そのコースをもつゴルフ場施設を優先的に利用させる旨の契約(以下本件契約という)を締結し、その頃被控訴人らは各自設立未了の控訴会社の代表取締役と称する村上に対し右各金員を交付したことを認めることができ(る。)
≪証拠判断省略≫
右認定事実からすると、右村上は設立中の控訴会社の機関として設立後の控訴会社のために本件契約に及んだとみるべきではあるが、設立中の会社の機関のなした行為の効力が会社成立とともに当然会社に帰属するのは、その行為が設立中の会社の目的、すなわち、会社設立という目的の範囲内のものである場合に限られると解すべきところ、右村上のなした本件契約締結行為は設立後における控訴会社の開業準備のための行為であり、設立中の控訴会社の目的の範囲外のものとみるほかはなく、従って、本件契約の効力が控訴会社設立と同時に控訴会社に当然帰属し、又は承継されるいわれはなく、この旨の被控訴人らの主張は理由がない(なお、この点につき控訴人は、本件契約上の債権債務を控訴会社が引継ぐことは、商法第一六八条第一項第六号のいわゆる財産引受にあたり、かつ、この財産引受につき控訴会社の原始定款に何らの記載もないのであるから、控訴会社は本件契約の効力をうけないと主張するところ、≪証拠省略≫に徴すれば、控訴会社の開業準備行為である本件契約に関し控訴会社の原始定款には何らの記載のないことが明らかであるから、右契約上の債権債務の引継が同号の財産引受にあたるとしても被控訴人らの前記主張は理由なきに帰する。)。
二、しかし、同時に、≪証拠省略≫によると、本件契約当時被控訴人らはいずれも右村上がすでに設立された控訴会社の代表取締役であると過失なくして信じて右契約に及んだこと、事実控訴会社の設立当初には右村上が控訴会社の代表取締役に就任したことが認められるのであって、このことと前記一、に認定した事実からすれば、本件契約は村上が控訴会社の無権代理人としてなした契約に類似するものと認むべく、従って、右契約をなした村上は民法第一一七条の類推適用により被控訴人らに対し本件契約上の債務の履行等につきその責に任ずべきものである。
進んで、≪証拠省略≫を併わせ考えると、控訴会社設立後、前記各保証金がすべて控訴会社の実施するゴルフ場開設の費用等にあてられるため控訴会社に交付されていること(右各金員が、控訴会社の実施するゴルフ場開設の目的のため控訴会社に交付されていることは控訴会社の自認するところである)、昭和四八年五月頃および昭和四九年一月二〇日頃控訴会社が被控訴人らに対し控訴会社によるゴルフ場開設につきその早期の実現に関する控訴会社の活動、努力その他の情況等について報告説明をなしその開設の遅延につき被控訴人らの理解をえようとしていること、被控訴人らの申入れに応じて昭和四九年六月三日頃控訴会社が役員会の議を経て右各保証金の返還を被控訴人らに約束し、かつ、その猶予を求めていることが認められるのであって、これらの事実に徴すれば、控訴会社はその設立後遅くとも同日頃までの間に、改めて右村上から本件契約上の地位を譲り受けたものと認めるべきであり、この認定に反する証拠はない。
控訴会社のなした右の地位の譲受について被控訴人らの承諾のあることは被控訴人らが控訴会社に対し、前記のとおり本件保証金の返還を申入れたこと、また、昭和四九年三月二八日及び昭和五〇年六月七日本件契約を解除する旨の意思表示をした(この点は当事者間に争がない。)ことによっても明らかなところである。
五、履行遅滞について
被控訴人らが昭和五〇年六月七日控訴会社に到達した書面により、同年八月末日までに約定どおりのゴルフコースを開設するよう催告し、併せて右の履行がないときは本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。
≪証拠省略≫によれば、控訴会社が約定したゴルフコースの開場予定は昭和四九年秋とされていたところ、その後ホールの数、その地形に変更が生じたうえ(この点は当事者間に争がない)、昭和五〇年六月になっても控訴会社は本件ゴルフ場造成工事につき山梨県条令による同県知事の同意及び設計の確認等を受けておらず、右の催告の期間が過ぎても未だ開場の見込が立っていなかったことが認められる。右の状況は、ゴルフ場の開設工事が往々にして予定どおりに進行しないことがあるとしても、控訴会社の履行遅滞というべきであり、前記被控訴人らの意思表示により本件契約は昭和五〇年八月末日の経過により解除されたものと認めるのが相当である。したがって控訴会社は被控訴人らに対して右解除に基づく原状回復として本件入会保証金を返還する義務がある。
以上の次第で、本訴請求は原判決が認容した限度で理由ありとして認容すべく、その余は失当として棄却すべきものであり、結論においてこれと同趣旨に出た原判決は結局相当であって本件控訴は理由がない。
よって、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 外山四郎 裁判官 海老塚和衛 小田原満知子)